西山里緒さんのツイートで「取材」のあり方を改めて考えてみた
先日、Twitter界隈で話題となったことで私のタイムラインにも流れてきたツイートがありました。
ビジネスインサイダーというサイトで記者をされている西山里緒さんのツイートです。
ずっと言おうかどうか迷ってたけど言ってしまおう。
「記事の事前チェックをさせて当然」
という考え方はマジで害悪以外の何者でもないと思う。
それを言わせるのは恥だと思うべき、メディアも、取材された側も。
そうさせることでメディアは自らの価値を損ない、「報道」の価値も損なっている。
— 西山里緒 / Rio @ビジネスインサイダー (@ld4jp) 2018年7月20日
このツイートに対して、以前の経験から多少批判的なツイートをしてしまいました。
この方はプロ意識あるのかもしれないけど、過去に取材受けた時にまったく何も知らずに結論ありきで質問され、しかも「記事は明日の朝刊に載せるので事前チェックできません」「発言者として名前載せさせてください」とかいきなり電話かけてきて質問始めるんだからそりゃチェックなきゃ答えたくないよね https://t.co/WXiXCq8Lxr
— HK@わかは商店 (@soxbidwhwork) 2018年7月21日
以前、とある新聞社から「専門家としての見解を聞きたい」という趣旨の電話を貰ったので「役に立つならば」と回答したのですが、そもそもこの話がどのような形で使われるのかの説明すらなかったんですよね。
それで確認した結果が「明日の朝刊記事に載せます」(電話がかかってきたのは夕方近くだった)、「専門家として社名および名前を載せたいので教えて下さい」という回答でした。
紙面に社名入りで掲載されるとなれば当然のことながら事前にチェックしなければならないのですが、そもそもこれから記事を書き、書き終わったら(恐らく)すぐに印刷に回すわけですから翌日の朝刊だとチェックのしようがないわけですよ。
一応状況はその対応が終わった後に上司へ報告すると同時に「今後このような案件で電話があった場合は断らせてもらいます」と伝えた記憶があります。
もちろん、協力できることがあればそれに助力することはやぶさかではないのですが、明らかに紙面を埋めるために思いつきでテーマを決めたのだろうとわかるくらい記者が何も知らず、質問もそういうストーリーで書きたいのだろうと推察できるくらいには結論ありきだったのでさすがにそのような案件には協力する気はおきませんでしたからね。
そういった経験もあって、ついつい新聞記者の方に対してはあまり協力したくないなぁ…という思いが沸いてしまうのです。その流れもあって、上記の批判的なツイートをしてしまったわけです。
ただ、実は自分の仕事でも取材を行ってコンテンツとして出すことがあるので一時期同じようなテーマでかなり悩んだことがあります。
相手が言ったことをただそのまま垂れ流すのはただの「伝書鳩」であって、「取材」ではないよね?という悩みですね。
そういう意味では、西山里緒さんがツイートされている以下の内容というのは非常に共感できます。
ある人に「あなただから、取材してほしいんです」と言われて気づいた。
おカネにはならなくても、私の視点か、報道する価値ってあるんだと。それがメディアの価値にもなるんだと。
事前チェックって編集権を(部分的にでも)移譲させてしまうこと。自分の視点を、かんたんに渡してはならない。
— 西山里緒 / Rio @ビジネスインサイダー (@ld4jp) 2018年7月20日
私は取材を行って作成するコンテンツでは「自分の視点」を必ず入れるようにしていますし、そのような「自分の視点」に価値を感じてもらうことでコンテンツ自体の価値を上げています。
その点に西山里緒さんが気づいたのは、記者としての第一歩を踏み出したということであり、次のステップに進むタイミングを迎えたことなので喜ばしい話なんですよね(上から目線で恐縮ですが)。私は新人や若手の教育も結構やっていたので、まさにこのようなことに気づいた後輩がいれば手放しで褒め称えたものです。
本来であれば、ここから次のステップに向けた新たな指導を行っていくところなのですが、世界に公開されているSNSでつぶやいてしまったが故に、その次にあるものを「当然理解しているよね?」という前提での意見がバンバンぶつけられるわけですよ…
その点ではちょっと世間に自分の考え方を公表するのが早すぎたのかなぁ…というのがこのツイートに対する個人的な感想でした。
実際、「自身の視点」を盛り込むためには対象となる企業なり、人なり、業界なりに関してそれなりに時間をかけて理解していかなければ実現できないですし、当然取材時のやりとりから取材後のフォローまで含めて多大な労力がかかります。
また、実際の取材とは別に裏付けを取るための別取材なども必要であって、1回の取材だけですべてを完結させることってできませんからね。あるコンテンツを作るのに対象となる企業への取材はもちろんのこと、競合企業回ったりパートナー企業回ったり、取材対象者とは別の部署の人に話を聞いたりとか結構苦労しながら情報集めてますからね。もちろん、新聞やウェブメディアのようなサイクルでコンテンツを大量に作るといったビジネスをしているわけではないので比較するのはおかしいですけどね。
ただ、それくらい本来であれば時間と足と費用を使わないと良質なコンテンツってそうそう作れるものではないということだと思っています。
「報道のあり方」に関するツイートも彼女が幾つかしていて、それについてもいろいろと思うところがあるのですが、それだけですごく長い記事になりそうなのでとりあえず今回の記事では触れないようにしておきます。
その上で書いておきますが、良質なコンテンツを作成できないのであれば「報道」ではなくて「広告」に近い形であっても明らかな誤報を出すよりはマシだと思って動くべきじゃないでしょうかね。
なお、自身の作成しているコンテンツは「広告」目的ではなくて多少「報道」寄りのコンテンツを作っていることもあって、「事前チェック」に関しては限られた範囲に絞ってお願いすることにしています。
西山里緒さんがツイートしているように、記事全文をチェックさせることはおかしな話なので拒否していますが、正直それを拒否するためには相手に信頼してもらわないと難しいのも確かです。
取材時間なんて1~2時間程度ということが多く、その間で「こいつは信用できるな」と思って貰うのってかなり大変なんですよね。だからこそ、上記の通りある程度時間をかけて準備が必要になるし、取材時だけではなくて取材後もいろいろと動かなきゃならない。ましてや、相手の業務時間を割いて対応してもらっているわけなので尚更ハードルが上がる行為ですからね、「取材」って。
そういうことを踏まえた上で、「取材」を申し込んでいる記者がどれだけいるのかなぁというのをSNSで批判的なツイートを目にする度に思ってしまいます。
ちなみに、上記のツイートに反応した後に、どうやら彼女が作成した記事が取材対象者の意図や発言内容をカットしたということを表明したことでめちゃくちゃ叩かれていますよね。
え、なにこのPV稼ぎタイトル1200万ってなんの数字?バーチャルタレントって統一して言うようにしてる俺の努力はってか挑んでるのはVTuber市場じゃなくて…意図ガン無視かよ…喋った構想ほぼカットってああもう糞だるいなあ
一生記事チェックのないメディアの取材は受けねえhttps://t.co/VZgGVPbB8n
— 加藤直人://クラスター (@c_c_kato) 2018年7月24日
まぁ、熱く語った内容を根底から否定されるような話が出てくれば炎上ネタとして食いつかれるのは仕方ないでしょうし、何より取材対象者への非礼になるので素直に反省はすべきでしょう。
彼女は自身をペーペーと言っているのでそこまで記者歴が長くないのかな、とは思いますが、取材対象者からしてみればそんなことは知ったことではないわけで、きちんとした記事を書けよって話ですからね。
ましてや、特定の企業や特定の人へのインタビュー記事ともなれば、取材対象者にとってその記事が与える影響って計り知れないわけですから、このような形で取材へのネガティブなイメージが広がってしまうのは更に取材を難しくしてしまう要因になってしまうのでね。
ただ、これで将来がある若手を潰すのももったいない話であって、きちんと指導を受けて良質なコンテンツを作れる記者に今後西山里緒さんがなっていくことを期待しています。いろいろと思うところはありますけど、記者という職業があることで得られる知見って非常に有用なものも多いですから。
小さい頃に一度新聞記者に憧れたことがある身としては、記者やライターとして頑張っている皆さんには本当に頑張って欲しいし、プロとして憧れを持って貰える職業にしてもらいたいんですよね。
自分もそのうちメディアを立ち上げたいなという気持ちも持っているし、さりげなーくメディアへの寄稿なんかもこれからやっていこうと思っているところなので業界全体がもっと活性化するような方向に向かって欲しいなぁと思う今日この頃なのですよ。
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